消えかけの灯火 ー 5日間の運命 ー
「よいか。ちゃんと救世主の言う事を聞くんじゃ。反抗すれば、それはお前さんの「死」に繋がる。間違っても「死んでもいい」なんて思うんじゃあねぇぞ。」
……また、俺の考えていることをこの婆さんはズバリと……。
すると、婆さんが自分の服にあるポケットに手を入れ、スルッと何かを取り出した。
「お前さんにこれをやろう。」
そう言って差し出された物は…………お守り。
しかも、ボロボロで黒ずんだ少し小さめのお守りだ。
使い古したようなもので、明らかに新品ではない。
生地は霞んだ紫色が見えながらも、ところどころが破れかけている。
「……これ、めちゃめちゃ汚れてんじゃん。」
俺はそのお守りを見て、不信なオーラを醸し出しながらお守りに指を差す。
その様子を見た婆さんは左目をピクリとさせ、ムッとした表情を見せた。
すると婆さんはスッと立ち上がり、前のめりで話をし出す。
「効果は抜群じゃぞ?もしも、救世主でもお前さんを危機から回避させられなかった場合、このお守りが救世主の代わりとしてお前さんを危機から守ってくれる。ただし、効力は一回きりだ。だがその一回は大きいぞ?肌身離さず持っておきなさい。」
婆さんの手から俺の手へとお守りが渡る。
少し……というか、かなり抵抗はあったが、なんだか成り行きで受け取ってしまった。
「……請求すんじゃねぇだろうな?」
俺はそのお守りを汚い物を持つかのように、親指と人差し指でつまんで見せた。
「まだ疑うか!金など要らんわい!」
そんな俺の態度に、婆さんは噛み付くような口調になる。
だけど俺は、婆さんの噛み付き口調にも動じずまだ疑いをやめなかった。
だってこんなの、疑わない方がおかしい。
「じゃあなんでこんな所でこんな高い金額提示して占い師やってんだよ?」
別に、間違ったことは聞いてないだろ。
「うむ、特に意味は無い。」
「無いのかよ!!」
ふん、と吹っ切れたかのような言い草の婆さん。
「だがお前さんに助言してやれるのは今日だけだ。後はわしが言ったように、救世主に頼ると良い。」
「…………俺、婆さんが言ってる事、全然信じれてねぇんだけど。」
はぁ、と肩を落として呆れたような態度で俺は言う。
「よいよい。今は信じられないだろうが、嫌でも明日から信じることになる。」
自信ありな婆さん。
そんな婆さんに俺は、信じるも信じないも、ただただ疑問に思ったことを口に出してみた。
「…………もし、もしだぞ?もしも、婆さんが言ってる事が本当だとして、なんで見知らぬ俺に金も取らずここまでしてくれるんだよ?婆さんに全くメリットねぇじゃんか」
すると婆さんは少しの間を置いて。
「……気分じゃ。」
少し曲がった腰の後ろで手を組み、知らん顔でもするような様子でそう言った。
「……気分って……」
真面目に聞いた俺が馬鹿だったよ。
俺は貰ったお守りを制服のズボンのポケットに突っ込み、「ふぅ」とため息をついた。
「じゃあまぁ、俺もう帰るわ」
ポケットに手を突っ込んだまま、話を切り上げてその場を立ち去ろうとくるっと婆さんに背中を向けたその時だった。
「手を貸しぃ」
婆さんはまだ俺の足止めをしてくる。
「まだなんかあんの!?」
俺はついツッコミを入れるかのように、少しキレ気味でぐるんと振り返った。
「いいから貸しぃ」
何故か落ち着いた様子で、ちょいちょいと手招きをする婆さん。
俺は「はぁ」とまたため息をつきながら、言われるがままポケットに突っ込んでいた右手を差し出した。