この恋に名前をつけるなら、
彼からは懐かしい匂いがして
その匂いに誘われるように
自然と手を握り返してしまった。
その瞬間彼に腕を引かれ抱きしめられた
彼の中に包まれた時に
この懐かしい匂いが
皮肉にも浅野さんと同じタバコだと
気づいた時には
頬に一筋の涙が流れていた
そんな私の頬を指で拭い
優しい笑顔で微笑みかけてくる彼の顔が
だんだん近づいて
そっとキスされた。
そしてもう一度抱きしめられて
「今日の夜暇?」
と耳元で囁かれた
感情も現状も
何がなんだかわからず
ただ立ち尽くしていると
「離れてくださーい。
暇じゃありませーん。」
と、シンちゃんが間に入ってきた。、
「え、だって泣くほど喜んでるじゃん」
「俺の妹みたいなやつって言っただろ?
あー、もう、、
だから俺嫌だったんだよ、、
お前ら節操きかねぇからさ。」
「いや、お前に言われたかねーんだけど」
「だからって
誰に手だしてもいい訳ねぇだろ。」
「まあまあ、2人とも落ち着いて、ね??
マリアいるしさ」
「もぅ怖いんだからシンちゃんわ。
噂以上のシスコンぶりだわね、
カズちゃん。」
「そーでしょ、タカちゃん。
困ったものよ〜。」
2人がふざけるので怒る気も失せたのか
シンちゃんはあきれながら
座ってギターをいじりだした。
私も途中からどうでもよくなって
部屋に転がってたマンガを読んでいたら
「なんかごめんね。」
とタカが話しかけてきた。
「別に大丈夫だよ。」
当たり障りのない返事をすると
「あー、マリアはさ、
歌いたくないの?」
と、少し小さくなった彼が聞いてきた。
さっきの勢いの良さはどこに行ったのか
小さくなった彼が可笑しくて、
「そんなことないよー。
歌うこと好きだから。」
と笑いながら答えた。
「何がおかしいの?笑」
私につられて笑いながら尋ねる彼
「悪い人じゃなさそうで
よかったなぁって」
「マリアってすぐ騙されるタイプでしょ。」
彼がタバコに火をつけながら
小馬鹿にしたように言うので
「違うよー、騙されてあげてんの。」
そう言いながら
彼から火をつけたタバコを取り上げて
彼にそっと口付けをしながら
「歌ってあげるよ。」
彼は一瞬驚いた表情を見せながらも
「やっぱり、いい女じゃねぇか。」
そう呟いて私が持つタバコを取り返し
席をたった。
少し馬鹿にされたのが
気に入らないからと
少し強がってキスした自分の行動に
ほんとは心臓が破裂しそうだったのは
秘密にしておこう。