冷徹社長の初恋
「ごちそうさまでした」

今夜は見学の慰労も兼ねてるから、僕の奢りと言い切られてしまった。
〝上司と部下〟っていう雰囲気の薄い職種だけど、川原先生にはちょこちょこ奢られてしまっている。

「町田さん、けっこう遅くなってしまったから、送って行こうか?」

「大丈夫ですよ。いつもの残業と変わらないですし」

「そう?女の子なんだから、気をつけないとダメだよ」

そんなふうに言われると、気恥ずかしくなる。

「は、はい。ありがとうございます」

「じゃあ、また来週」

駅で別れて、それぞれ乗る電車のホームへ向かった。なんだか、今夜の川原先生はいつもと違った気がする。〝かわいい後輩〟だなんて、初めて言われた。
それに……春日さんが私に気があるだなんて……
そんなわけないのに。
あんなに大人で素敵な男性が、私に気があるわけない。
そうわかっているのに、考えれば考えるほど、胸が苦しくなる。
私は、その理由に気づかないフリをして、家路を急いだ。
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