きみこえ
X'mas if 前編 聖夜に甘い一時を・・・・・・
十二月二十四日、陽太はケーキ屋で予約していたケーキをかなりの時間並び待ち、ようやく買って家に辿り着いた。
「ただいまー」
しかし、家の中は異様に静まり返っていた。
いつもなら、ケーキを楽しみにしている妹の日和が真っ先に飛んでくる筈なのに、と陽太は不思議に思ったが、とりあえずダイニングに向かう事にした。
すると、この静けさの理由がすぐに分かった。
ダイニングテーブルには白いメモ用紙が置かれていた。
【陽太へ 商店街の福引で温泉旅行のペアチケットが当たっちゃったのー! これってサンタさんからのクリスマスプレゼントかしら? 早速今からお父さんと一泊二日で行ってきまーす。ケーキは全部食べていいからね。メリークリスマス!】
「はあ!? 何がメリークリスマスなんだよ! こんなデカいケーキ日和と二人でも食べきれるかどうか・・・・・・」
そう独り言を言うとその書き置きの隣りにピンク色のキラキラと派手なラメが散りばめられたメモが置いてあった。
そこに書かれた文字から陽太はすぐに日和のものだと分かった。
【お兄ちゃんへ 美咲ちゃんの家にクリスマスパーティに招待されたから行ってくるね。女子皆でお泊まりするからケーキは全部食べていいからね!】
「お前もかよ!」
家族四人で食べる予定だったケーキの箱をゆっくりと開くと、そこにはフルーツやチョコがたっぷりデコレーションされた特大ホールケーキが鎮座していた。
甘い物が苦手ではない陽太でも流石にもれなく胸焼けする量だった。
ふと振り返れば、いつもなら家族皆が居る賑やかな家が今日は誰も居らずにしんとしていて、こんな寂しいクリスマスは初めてだった。
「あ、そうだ! 冬真を呼ぼう」
真っ先に冬真に食べるのを手伝って貰う事を思い付いた陽太は早速スマホを取り出し電話した。
数秒のコール音の後電話は繋がった。
「あ、冬真?」
『・・・・・・何の用だ?』
陽太は冬真の声の調子から電話の向こうで少し不機嫌そうな顔をしているのが想像ついた。
「あのさ、今日クリスマ」
そこまで言うと電話はブツリと切られてしまった。
陽太はすかさず再度冬真に電話を掛けた。
『何だ?』
「酷いじゃん! まだ要件も言ってないのに!」
『ふん、クリスマスパーティならしないぞ』
「ええ!?」
先手を打たれてしまった陽太は狼狽えた。
「じゃ、じゃあケーキだけでも」
『俺がケーキを食べるとでも思っているのか?』
スッパリと言われまたも電話は容赦なく切られた。
「あーー、あいつ甘いもん食べないの忘れてた! ついでにクリスマス好きじゃないっぽいし」
陽太は目の前のホールケーキを見やると次の手を考えねばとスマホのアドレスを開いた。
そして、こうなれば片っ端から友人に電話するしかないという結論に至った。
「あ、もしもし田中君? 今から家に来ない? ケーキが余っててさ・・・・・・。え? バイト、そっか、仕事頑張って!」
続けて他の友人に掛けるも彼女とデートやら家族旅行やら、クリスマスライブやらで断られ続けた。
「えーと、あとは・・・・・・」
甘い物が好きでバイトもしてなさそうでリア充でもない人を探していると、陽太の脳裏を過ったのはほのかの顔だった。
「・・・・・・メールしてみるか」
陽太は文面について悩みながらも、最終的には簡潔に【クリスマスケーキあるんだけど食べる?】とだけ書いて送った。
すると、速攻で【食べる!】と返事が返ってきた。
「どうぞ」
【おじゃまします】
ほのかはそれから陽太とメールをやりとりし、駅で待ち合わせ、少しばかり歩くと春野家に辿り着いた。
郊外にあるどこにでもありそうな一軒家、一歩足を踏み入れれば家族分のお揃いのスリッパや傘、家族写真等から幸せそうな家庭なのだなとほのかは羨ましく思った。
だが、クリスマスだというのに陽太以外の気配が感じられない事に違和感があった。
【今日はご家族の方は?】
「ああ、両親は旅行行っちゃって、妹も友達の家に行ってて」
【なるほど】
ほのかは陽太から妹が居ると前に聞いていたので、今日会えると思っていただけに残念に思った。
「いや、待って、今更だけど月島さんと二人きり?」
陽太は急に意識してしまい挙動不審に廊下を右へ左へと蛇行して歩いた。
ダイニングに行くと真っ先にほのかの目に入ったのはテーブルの上のケーキの箱だった。
箱の隙間からは大きくて、彩り鮮やかなフルーツとチョコレートやサンタやトナカイの砂糖菓子が垣間見え、ほのかは目を輝かせた。
だが、予想よりも大きいケーキに二人で食べ切れる自身はほのかにはなかった。
【他にも人を呼ぶ? 食べ切れるか分からないし】
「え! いや、既に電話しまくったけど全然捕まらなくって・・・・・・」
嘘はついていないが、二人きりで過ごしたいという気持ちも陽太にはあった。
【じゃあ今日は二人でクリスマスケーキ祭りで!】
「あはは、祭りって、せめてクリスマスパーティじゃない?」
陽太は早速白い紙の箱からケーキを取り出した。
「お茶とかも用意するからリビングで待ってて」
【分かった】
もう少しケーキを眺めていたかったが、それは後の楽しみにする事にし、ほのかは言われた通りリビングで陽太を待った。
暫くして、陽太は紅茶を運んだ後、適度に切れ目だけ入れたホールケーキをトレーに乗せてリビングへと向かった。
ケーキはずしりと重さがあり、気を抜くと腕が震えそうになる。
「お待たせ・・・・・・っうわ!!」
陽太は運悪く足元に零れた僅かな紅茶に足を滑らせた。
持ち前の反射神経で陽太は体勢を立て直したが、ケーキはトレーから消えていた。
その時、ほのかはケーキが宙を舞うのを見た。
苺が、サンタが、お菓子の家のチョコレートが、クリームが、銀色のアラザンが空を飛んだ。
その瞬間はほのかも陽太も何故か世界がスローモーションの様にゆっくりとゆっくりと動いている様に見えたが、それでも二人は為す術もなくケーキは無惨に地に落ちた。
それだけでなく、クリームやスポンジケーキがほのかの顔や服に飛び散り現場は大惨事となった。
「うわああああ!! ご、ごめん!!」
陽太はやらかしてしまった事に慌てに慌てた。
軽いパニックに陥りまずほのかの顔や服に付いたクリームを落とすべきか、床に落ちたケーキを片すべきか分からなくなった。
【ケーキ、ケーキが・・・・・・】
ほのかはあまりのショックに涙目になりこの世の終わりの様な顔をしながら床に落ちたケーキだった物を見つめた。
その残骸に震える腕を伸ばし、三秒ルールは有効だろうかとか、上の方はまだ何とかなるんじゃないかとかそんな事まで考えた。
だが、もう少しで手が届くという所でほのかは陽太に手を掴まれた。
「ごめん! 俺が悪かったから、そのケーキは諦めよう?」
ほのかは『でもケーキが』と言わんばかりの顔をした。
「あ、新しいケーキを用意するから! その前に身体中ベタベタでしょ? お風呂使って、ね?」
ほのかは無念に思いながらも陽太の言葉に頷いた。
「ただいまー」
しかし、家の中は異様に静まり返っていた。
いつもなら、ケーキを楽しみにしている妹の日和が真っ先に飛んでくる筈なのに、と陽太は不思議に思ったが、とりあえずダイニングに向かう事にした。
すると、この静けさの理由がすぐに分かった。
ダイニングテーブルには白いメモ用紙が置かれていた。
【陽太へ 商店街の福引で温泉旅行のペアチケットが当たっちゃったのー! これってサンタさんからのクリスマスプレゼントかしら? 早速今からお父さんと一泊二日で行ってきまーす。ケーキは全部食べていいからね。メリークリスマス!】
「はあ!? 何がメリークリスマスなんだよ! こんなデカいケーキ日和と二人でも食べきれるかどうか・・・・・・」
そう独り言を言うとその書き置きの隣りにピンク色のキラキラと派手なラメが散りばめられたメモが置いてあった。
そこに書かれた文字から陽太はすぐに日和のものだと分かった。
【お兄ちゃんへ 美咲ちゃんの家にクリスマスパーティに招待されたから行ってくるね。女子皆でお泊まりするからケーキは全部食べていいからね!】
「お前もかよ!」
家族四人で食べる予定だったケーキの箱をゆっくりと開くと、そこにはフルーツやチョコがたっぷりデコレーションされた特大ホールケーキが鎮座していた。
甘い物が苦手ではない陽太でも流石にもれなく胸焼けする量だった。
ふと振り返れば、いつもなら家族皆が居る賑やかな家が今日は誰も居らずにしんとしていて、こんな寂しいクリスマスは初めてだった。
「あ、そうだ! 冬真を呼ぼう」
真っ先に冬真に食べるのを手伝って貰う事を思い付いた陽太は早速スマホを取り出し電話した。
数秒のコール音の後電話は繋がった。
「あ、冬真?」
『・・・・・・何の用だ?』
陽太は冬真の声の調子から電話の向こうで少し不機嫌そうな顔をしているのが想像ついた。
「あのさ、今日クリスマ」
そこまで言うと電話はブツリと切られてしまった。
陽太はすかさず再度冬真に電話を掛けた。
『何だ?』
「酷いじゃん! まだ要件も言ってないのに!」
『ふん、クリスマスパーティならしないぞ』
「ええ!?」
先手を打たれてしまった陽太は狼狽えた。
「じゃ、じゃあケーキだけでも」
『俺がケーキを食べるとでも思っているのか?』
スッパリと言われまたも電話は容赦なく切られた。
「あーー、あいつ甘いもん食べないの忘れてた! ついでにクリスマス好きじゃないっぽいし」
陽太は目の前のホールケーキを見やると次の手を考えねばとスマホのアドレスを開いた。
そして、こうなれば片っ端から友人に電話するしかないという結論に至った。
「あ、もしもし田中君? 今から家に来ない? ケーキが余っててさ・・・・・・。え? バイト、そっか、仕事頑張って!」
続けて他の友人に掛けるも彼女とデートやら家族旅行やら、クリスマスライブやらで断られ続けた。
「えーと、あとは・・・・・・」
甘い物が好きでバイトもしてなさそうでリア充でもない人を探していると、陽太の脳裏を過ったのはほのかの顔だった。
「・・・・・・メールしてみるか」
陽太は文面について悩みながらも、最終的には簡潔に【クリスマスケーキあるんだけど食べる?】とだけ書いて送った。
すると、速攻で【食べる!】と返事が返ってきた。
「どうぞ」
【おじゃまします】
ほのかはそれから陽太とメールをやりとりし、駅で待ち合わせ、少しばかり歩くと春野家に辿り着いた。
郊外にあるどこにでもありそうな一軒家、一歩足を踏み入れれば家族分のお揃いのスリッパや傘、家族写真等から幸せそうな家庭なのだなとほのかは羨ましく思った。
だが、クリスマスだというのに陽太以外の気配が感じられない事に違和感があった。
【今日はご家族の方は?】
「ああ、両親は旅行行っちゃって、妹も友達の家に行ってて」
【なるほど】
ほのかは陽太から妹が居ると前に聞いていたので、今日会えると思っていただけに残念に思った。
「いや、待って、今更だけど月島さんと二人きり?」
陽太は急に意識してしまい挙動不審に廊下を右へ左へと蛇行して歩いた。
ダイニングに行くと真っ先にほのかの目に入ったのはテーブルの上のケーキの箱だった。
箱の隙間からは大きくて、彩り鮮やかなフルーツとチョコレートやサンタやトナカイの砂糖菓子が垣間見え、ほのかは目を輝かせた。
だが、予想よりも大きいケーキに二人で食べ切れる自身はほのかにはなかった。
【他にも人を呼ぶ? 食べ切れるか分からないし】
「え! いや、既に電話しまくったけど全然捕まらなくって・・・・・・」
嘘はついていないが、二人きりで過ごしたいという気持ちも陽太にはあった。
【じゃあ今日は二人でクリスマスケーキ祭りで!】
「あはは、祭りって、せめてクリスマスパーティじゃない?」
陽太は早速白い紙の箱からケーキを取り出した。
「お茶とかも用意するからリビングで待ってて」
【分かった】
もう少しケーキを眺めていたかったが、それは後の楽しみにする事にし、ほのかは言われた通りリビングで陽太を待った。
暫くして、陽太は紅茶を運んだ後、適度に切れ目だけ入れたホールケーキをトレーに乗せてリビングへと向かった。
ケーキはずしりと重さがあり、気を抜くと腕が震えそうになる。
「お待たせ・・・・・・っうわ!!」
陽太は運悪く足元に零れた僅かな紅茶に足を滑らせた。
持ち前の反射神経で陽太は体勢を立て直したが、ケーキはトレーから消えていた。
その時、ほのかはケーキが宙を舞うのを見た。
苺が、サンタが、お菓子の家のチョコレートが、クリームが、銀色のアラザンが空を飛んだ。
その瞬間はほのかも陽太も何故か世界がスローモーションの様にゆっくりとゆっくりと動いている様に見えたが、それでも二人は為す術もなくケーキは無惨に地に落ちた。
それだけでなく、クリームやスポンジケーキがほのかの顔や服に飛び散り現場は大惨事となった。
「うわああああ!! ご、ごめん!!」
陽太はやらかしてしまった事に慌てに慌てた。
軽いパニックに陥りまずほのかの顔や服に付いたクリームを落とすべきか、床に落ちたケーキを片すべきか分からなくなった。
【ケーキ、ケーキが・・・・・・】
ほのかはあまりのショックに涙目になりこの世の終わりの様な顔をしながら床に落ちたケーキだった物を見つめた。
その残骸に震える腕を伸ばし、三秒ルールは有効だろうかとか、上の方はまだ何とかなるんじゃないかとかそんな事まで考えた。
だが、もう少しで手が届くという所でほのかは陽太に手を掴まれた。
「ごめん! 俺が悪かったから、そのケーキは諦めよう?」
ほのかは『でもケーキが』と言わんばかりの顔をした。
「あ、新しいケーキを用意するから! その前に身体中ベタベタでしょ? お風呂使って、ね?」
ほのかは無念に思いながらも陽太の言葉に頷いた。