きみこえ
バレンタイン if White Chocolate
ほのかは丁寧にラッピングされた包みを持ちながら二年生の教室を右往左往していた。
その包みの中身は勿論バレンタインのチョコレートだった。
だが、その教室に目当ての人物は既に居なかった。
またすれ違ってしまった事にほのかは落胆した。
ほのかは今日一日チョコを渡す為に休憩時間になる度に二年生のクラスを覗きに行ったが移動教室や体育の着替えの時間等に重なり未だに渡せずにいたのだった。
「ねえ、あなたさっきもクラスに来てたよね、あれでしょ、誰かにチョコ渡したいんじゃない? 呼んであげよっか?」
諦めて自分の教室に戻ろうとした時、正面から二年生の女子生徒に声を掛けられた。
だが、明らかに教室に居ないのが分かっていた為、ほのかは【教室に居ないのでまた来ます】とスケッチブックに書いた。
「あ、分かった! あなた露木君の後輩ちゃんでしょ? いつもスケッチブックで会話する子が居るって聞いてたんだよね」
ほのかは翠がいつもクラスメイトに自分の事を話していると分かって少し照れくさくなった。
「露木君なら今呼び出しくらってるからなあ、当分クラスに戻ってこないと思う」
呼び出し、そんなフレーズからほのかは先生に呼び出されでもしたのかと想像した。
「あ、呼び出しってあれね、こ・く・は・く♪」
女子生徒はほのかの心を読んだかの様に楽しそうにそう言った。
「あいつ家が金持ちっていう噂があるから、結構玉の輿狙ってる女子多いんだよねー、まあ、今の所陥落させた女子はいないみたいだけど。あ、それ露木君の席に置いといてあげるよ。じゃあね~」
翠が実はモテるという事に感心している間、ほのかはボーっとしていた為気が付けば女子生徒にチョコレートを持っていかれてしまっていた。
自分で渡したいと思っていたが、チョコはあれよあれよと翠の席へと運ばれ、机の上に山の様に積まれたチョコの中に置かれてしまった。
どうしようかと考えたが休憩の残り時間があまりなく、ほのかは諦めて自分の教室に戻った。
暫くして、ほのかは直接渡すつもりだった為、チョコレートに名前等何も記載しなかった事を思い出した。
やはり、直接渡したかったとほのかは深く後悔した。
翌日の放課後、ほのかは翠に呼び出された。
部活の事だろうかと思いながら部室に行くと、翠がにっこりと笑ってほのかを出迎えた。
「ああ、月島さん、昨日はチョコレート、ありがとうございました。ホワイトチョコレート、とても美味しく頂きました。直接お礼が言いたくて呼び出してしまいました」
あれだけチョコがあったのに、名前も書いてないのに、チョコをあげた事が分かってもらえてほのかは嬉しくなった。
だが、ほのかには一つ気になっている事があった。
【名前を書き忘れたのにどうして分かったんですか?】
「ええ、確かに差出人は書いてありませんでした。ですがちゃんと文字は書いてありました。いつも月島さんの文字は見ていますからね」
翠の言う通り、ほのかはホワイトチョコレートを半紙に見立て、チョコペンで気持ちを文字に込めて書いていた。
文字を見ただけで分かってしまうとは筆跡鑑定人になれるんじゃないかとほのかは感心した。
「字、大分上達しましたね。とめ、はね、はらいが美しくなってきました」
チョコペンなのに、そういったところも見ている事にほのかは驚きつつ、字を褒められた事に喜んだ。
「それでですね、ここからはお説教タイムです」
【!?】
一体何をしでかしてしまったのだろうかとほのかは身構えた。
翠はいつになく真面目な顔でほのかに近付き、壁際に追いやると逃げられないよう壁に手をついた。
ほのかはあまりの近さにふわりと香る翠の匂いに心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
「何故、あんな事を書いたのですか?」
【あんな事って?】
あんな事がどれの事なのかほのかには何も思い当たらず、自分が書いた内容を必死に思い出していた。
「いえ、いいんです。あなたの事ですから、きっと間違えて書いたか、あげる人を間違えたか・・・・・・そうですよね?」
その言葉にほのかは顔を曇らせた。
間違えたつもりもなく、ほのかはどうしたらこの想いが伝わるのだろうかと考えていた。
【間違いなんかじゃありません。あれは先輩にだけに用意しました】
そう伝えると、翠は切なげな表情を浮かべ、深い溜息を吐いた。
「嬉しかったですよ。あなたの気持ち、素直に心から嬉しいと思いました。でも、そこに深い意味はないのも分かってるんです。だから・・・・・・」
翠は更にほのかに近付き、そっと頭を撫でた。
「だから、これはお仕置です」
そう言う翠の顔は優しげだったが、どこか悪戯っ子みたいな顔でもあった。
これのどこがお仕置なのだろうかと、ほのかは完全に油断していた。
翠はそんな呆けた顔をしたほのかを見て、瞳を細めると、ほのかの前髪を掻き分けると額に口付けをした。
それは世界で一番優しいお仕置だったが、ほのかにとってはそれは確かにお仕置になった。
あまりに予想外な出来事にほのかは心臓が止まるかと思った程だった。
「ふふっ、驚かせてしまいましたか? 今日はこの辺にしておきますが、男という生き物は本気にしたらこんなのではすまないんですからね? だから、次はないので覚悟してて下さい」
【はい】
顔を上げれば、そこにはいつも通り、優しい笑顔の翠が居るのだろうと思ったが、ほのかはその顔を直視する事が出来なかった。
ほのかは火照る顔をスケッチブックで隠しながらそう書いて見せた。
『大好きな先輩へ いつもありがとう』
ほのかはチョコに書いたメッセージを改めて思い出した。
文字というのは大なり小なり人に影響力がある事をほのかは思い知り、来年のバレンタインは・・・・・・、その時にはまたその時の素直な気持ちを伝えようと思った。
その包みの中身は勿論バレンタインのチョコレートだった。
だが、その教室に目当ての人物は既に居なかった。
またすれ違ってしまった事にほのかは落胆した。
ほのかは今日一日チョコを渡す為に休憩時間になる度に二年生のクラスを覗きに行ったが移動教室や体育の着替えの時間等に重なり未だに渡せずにいたのだった。
「ねえ、あなたさっきもクラスに来てたよね、あれでしょ、誰かにチョコ渡したいんじゃない? 呼んであげよっか?」
諦めて自分の教室に戻ろうとした時、正面から二年生の女子生徒に声を掛けられた。
だが、明らかに教室に居ないのが分かっていた為、ほのかは【教室に居ないのでまた来ます】とスケッチブックに書いた。
「あ、分かった! あなた露木君の後輩ちゃんでしょ? いつもスケッチブックで会話する子が居るって聞いてたんだよね」
ほのかは翠がいつもクラスメイトに自分の事を話していると分かって少し照れくさくなった。
「露木君なら今呼び出しくらってるからなあ、当分クラスに戻ってこないと思う」
呼び出し、そんなフレーズからほのかは先生に呼び出されでもしたのかと想像した。
「あ、呼び出しってあれね、こ・く・は・く♪」
女子生徒はほのかの心を読んだかの様に楽しそうにそう言った。
「あいつ家が金持ちっていう噂があるから、結構玉の輿狙ってる女子多いんだよねー、まあ、今の所陥落させた女子はいないみたいだけど。あ、それ露木君の席に置いといてあげるよ。じゃあね~」
翠が実はモテるという事に感心している間、ほのかはボーっとしていた為気が付けば女子生徒にチョコレートを持っていかれてしまっていた。
自分で渡したいと思っていたが、チョコはあれよあれよと翠の席へと運ばれ、机の上に山の様に積まれたチョコの中に置かれてしまった。
どうしようかと考えたが休憩の残り時間があまりなく、ほのかは諦めて自分の教室に戻った。
暫くして、ほのかは直接渡すつもりだった為、チョコレートに名前等何も記載しなかった事を思い出した。
やはり、直接渡したかったとほのかは深く後悔した。
翌日の放課後、ほのかは翠に呼び出された。
部活の事だろうかと思いながら部室に行くと、翠がにっこりと笑ってほのかを出迎えた。
「ああ、月島さん、昨日はチョコレート、ありがとうございました。ホワイトチョコレート、とても美味しく頂きました。直接お礼が言いたくて呼び出してしまいました」
あれだけチョコがあったのに、名前も書いてないのに、チョコをあげた事が分かってもらえてほのかは嬉しくなった。
だが、ほのかには一つ気になっている事があった。
【名前を書き忘れたのにどうして分かったんですか?】
「ええ、確かに差出人は書いてありませんでした。ですがちゃんと文字は書いてありました。いつも月島さんの文字は見ていますからね」
翠の言う通り、ほのかはホワイトチョコレートを半紙に見立て、チョコペンで気持ちを文字に込めて書いていた。
文字を見ただけで分かってしまうとは筆跡鑑定人になれるんじゃないかとほのかは感心した。
「字、大分上達しましたね。とめ、はね、はらいが美しくなってきました」
チョコペンなのに、そういったところも見ている事にほのかは驚きつつ、字を褒められた事に喜んだ。
「それでですね、ここからはお説教タイムです」
【!?】
一体何をしでかしてしまったのだろうかとほのかは身構えた。
翠はいつになく真面目な顔でほのかに近付き、壁際に追いやると逃げられないよう壁に手をついた。
ほのかはあまりの近さにふわりと香る翠の匂いに心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
「何故、あんな事を書いたのですか?」
【あんな事って?】
あんな事がどれの事なのかほのかには何も思い当たらず、自分が書いた内容を必死に思い出していた。
「いえ、いいんです。あなたの事ですから、きっと間違えて書いたか、あげる人を間違えたか・・・・・・そうですよね?」
その言葉にほのかは顔を曇らせた。
間違えたつもりもなく、ほのかはどうしたらこの想いが伝わるのだろうかと考えていた。
【間違いなんかじゃありません。あれは先輩にだけに用意しました】
そう伝えると、翠は切なげな表情を浮かべ、深い溜息を吐いた。
「嬉しかったですよ。あなたの気持ち、素直に心から嬉しいと思いました。でも、そこに深い意味はないのも分かってるんです。だから・・・・・・」
翠は更にほのかに近付き、そっと頭を撫でた。
「だから、これはお仕置です」
そう言う翠の顔は優しげだったが、どこか悪戯っ子みたいな顔でもあった。
これのどこがお仕置なのだろうかと、ほのかは完全に油断していた。
翠はそんな呆けた顔をしたほのかを見て、瞳を細めると、ほのかの前髪を掻き分けると額に口付けをした。
それは世界で一番優しいお仕置だったが、ほのかにとってはそれは確かにお仕置になった。
あまりに予想外な出来事にほのかは心臓が止まるかと思った程だった。
「ふふっ、驚かせてしまいましたか? 今日はこの辺にしておきますが、男という生き物は本気にしたらこんなのではすまないんですからね? だから、次はないので覚悟してて下さい」
【はい】
顔を上げれば、そこにはいつも通り、優しい笑顔の翠が居るのだろうと思ったが、ほのかはその顔を直視する事が出来なかった。
ほのかは火照る顔をスケッチブックで隠しながらそう書いて見せた。
『大好きな先輩へ いつもありがとう』
ほのかはチョコに書いたメッセージを改めて思い出した。
文字というのは大なり小なり人に影響力がある事をほのかは思い知り、来年のバレンタインは・・・・・・、その時にはまたその時の素直な気持ちを伝えようと思った。