三日間の幸福
街がクリスマスの色に少しずつ染まり始めてきた秋の終わり。

平良がふいに言った。

「週末から駅前のイルミネーション始まるみたいだけど、見に行く?」

今なら平良なりの気遣いだったって分かる。
でもその頃の私には、何も考えてない声のように感じた。

「イルミネーションとか、見に行く気分じゃない。」

私は低い声で答える。

私はただの子どもだった。
悲劇のヒロインになって平良を困らせたかった。

平良なら「えー、見に行こうよ」って言ってくれるかと思った。

でも平良は少し睨むような目で私を見てきた。

「いつまでそんな顔してんの。」

私を突き放すような声。

「自分で決めたんじゃん、産まないって。」

分かってる。
分かってるけど。

手術以降、罪悪感に押しつぶされそうだった。

何が良かったのか分からない。

それでも、平良の言葉はあまりにもその時の私には無情に響いた。

「平良には分からないよ。」

平良が黙り込む。

「平良は私のことなんて全然考えてない。」

私が言い放つと、部屋がまた静かになる。

「分かんねえよ。沙和のことなんてさっぱり理解できねえよ。」

平良がテーブルの上を見つめたまま言った。

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