三日間の幸福
私、このまま死ぬのかな。

そう思った時、長く続いた揺れがゆっくりと収まった。

隆之が布団から顔を出す。

「と、止まった・・・?」
「止まった。」

隆之の顔が死んでいる。

このホテルが無事だっただけ良かった。

震える手で何とか下着に手を伸ばす。
隆之はというとあっという間にワイシャツを着ている。

廊下からスタッフの声がする。
他の客も廊下に出たのか、騒がしい。

「大丈夫ですかー大丈夫ですかー」そんな声と、「エレベーターが止まってます!」という声と、「階段!階段!」という声と。

とにかくパニックに陥っている。

「落ち着いてください、皆さん廊下に出てください。」

そういうスタッフの声もとても落ち着いているとは思えない。

隆之がスマホを急いで操作する。

「まじかよ。やべえ。電車動くかな。」

私はやっと身支度を整えた。

そっと2人で廊下に出る。
と、隆之がさっと私から離れた。

「ごめん、俺急いで帰るわ。」

隆之はそう言ってホテル代を私の手に渡してきた。

えっ・・・

唖然とする私。
呼び止めかけるスタッフ。

隆之はスタッフの声を無視して非常口の方へと走り去っていった。

私は一人、その場に残される。

ほら。

なんとなく分かってる。
隆之のそういうとこ。

慣れっこだ。
寂しくなんてない。

私は他の客たちと一列に並び、ホテル代を支払った。

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