【完】いいから逃げちゃおうよ






あれから10分くらい歩いて、見えてきたのは、暗くて、冷たくて、先の見えない、海だった。





「夜の海って、…私初めて来た」


「俺も」




圭太と顔を合わせて笑った。


これから先の運命が、交差しなくても、それでも、こんな小さな初めてが、こんなにも嬉しかった。



黒くて、暗くて、海と空の境目がまるでないみたい。

空と海は、いつだって、接しているように見える。


私と圭太の距離は、微妙に開かれていた。





「俺さ、」


「うん?」




海と空の境目を探しながら、突然話し出した圭太に相槌を打った。




「由紀の、なんでも自分を後回しにしちゃうくらい、周りのことしか考えてないところ、すげー好き」




圭太のその言葉に、今度は相槌を打つことができなかった。



すき……。


それって、どういう意味なのか。


今でも期待してしまう私は、本当にダメなやつだ。




踏ん切りなんて、まるでついていない。

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