【完】いいから逃げちゃおうよ
「いいなずけ……」
許嫁ってそもそもなんだっけ。
なんて、私の頭はいつでも呑気で。
自分には起こり得ないと思っていたことが起きると、実感なんて湧かなすぎて、
驚くとか驚かないとか、
そういう次元の話じゃないらしい。
今だって、気になるのは、弟と妹たちが、お皿洗いをやっていることだ。
…どうか、お皿を割って怪我をするなんてことになりませんように!
「由紀?」
お母さんの不思議そうな声に、意識がこっちに戻ってきた。
「…なんの話だっけ?」
1番危なっかしい、双子の弟の方の大河のことがきになって、頭に話の内容があんまり入ってこない。
ごめんお母さん!!
「由紀に許嫁ができたって話」
繰り返していうお母さんの顔には、悲しみとか、心配とか、そういう色が見えた。