妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
一章、プロポーズが突然すぎて

一日の仕事を終え、軽い疲労感とともに椅子から立ち上がる。

まだパソコンに向かっている男性社員や、仕事から解放され賑やかに話し始めた女性社員たちの傍を、バッグの持ち手をぎゅっと握りしめて進んでいく。

廊下へと進む途中で、同じく帰り支度を整え席から立ったお局的ポジションの五十代前半の女性社員と目が合い、考えるよりも先に挨拶の言葉が口をついた。同時に頭も下がる。


「お疲れ様でした。お先に失礼します」

羽柴(はしば)さん、お疲れ様! また来週!」


仕事の疲れなど微塵も感じられない溌剌とした口調で挨拶を返され、自然と笑みがこぼれた。

すると、お局女性社員の隣のデスクから、縋るように切望な声がかけられる。


「羽柴さん! さっきの合コンの話、お兄様になにとぞよろしくお願いします!」


両手を合わせてそんなことを言った後輩女子社員に、お局女性社員は眉間にしわを寄せ「やめなさい」とたしなめ、私は苦笑いした。


「それは……、ごめんなさい!」


両手を合わせて後輩の彼女の真似をしてから、改めて「お先に失礼します」と呟く。

背後で上がった残念な叫び声を聴きつつ、ドアを力いっぱい押し開けた。

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