妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
「私には心に決めた相手がいます。だから高志さんとは結婚できません。どうかわかってください」
叔父は唇を噛んでから、玄関に向かってゆっくりと歩き出す。
そのまま帰って欲しいと願ったが、道を開けるべく横に退いた私のそばで叔父が足を止めた。
「なんの力もないか。ならなぜ、青砥の息子はそんなお前を結婚相手に選んだんだ? それこそ高志と同じで、力のある娘との縁談話などたくさんきているだろうに。青砥社長もよく許したものだ」
恭介君が私を選んでくれたのは、好いてくれているから。
そう言い返したいのに、言葉が喉で詰まって出てこない。
彼の口から「好きだ」とまだ言われていないと気付いてしまったからだ。
「色仕掛けか? それとも、なにもない故の相手からの哀れみか?」
「叔父さん!」
「せいぜい、今日のことを後悔しないように」
兄が勢いよく立ち上がり椅子を倒すと、叔父は捨て台詞を吐き、ふんっと鼻で笑ってから、家を出て行った。
「大丈夫か?」
俯けた視界の中に心配そうに割り込んできた兄へと、弱々しく笑いかける。