妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~


「社長の立場からしたら、会社のためにより良い相手って願うのは当然だけど、亡くなったお父さんの手前、きっと反対しずらいよね。叔父さんの言う通り、相手が私で恭介君のお父さんをがっかりさせちゃうかな」

「あいつの親父はそんな小さい人間じゃないから安心しろ」

「......うん」


子供の頃、数えるほどしか会ったことはないけれど、恭介君のお父さんの笑顔が素敵だったのをよく覚えている。

けれどそれは恭介君の父親としての一面であって、社長としての顔は知らないのだ。


「それより。恭介と結婚するって本当なのか?」


不安で揺れる中、ちくりと刺すように問いかけられ、ハッと顔を上げる。


「うん。今さっき、プロポーズの返事したの」

「そっか。おめでとう」


優しく響いた兄の言葉に、じわりと胸が温かくなり、目頭が熱くなる。


「ごめんね。先に私だけ」

「なに言ってんだよ。恭介ならお前を任せられる。今まで苦労した分、幸せにしてもらよ。......あぁ。俺もやっと手のかかる妹から解放されるのか!」


バシッと私の腕を叩いてから、兄は私に背を向け、自分の部屋へと歩いていく。


「お兄ちゃん。今まで有難う」


兄との生活も終わりが近づいてきているのだと実感し、今までの思い出が蘇る中、涙がひとしずくこぼれ落ちて行った。









< 102 / 196 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop