妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
助手席に乗り込みながら問いかけると、朝の空気よりも爽やかな顔をしていた恭介君が不敵に笑った。
「まだ結婚の挨拶が済んでないだろ」
そのひと言に、きょとんとしてしまう。
恭介君の両親の元には既に行っている。
他には誰がと疑問に思い三秒後、窓から自分の住むマンションを見上げた。兄にだろうかと考えたからだ。
しかし、それなら私が車に乗りこむ必要はない。
恭介君もシートベルトを装着したまま降りる気配が全くないため、見当違いだという結論に至る。
だったらまさか、叔父さんの元に殴り込み……挨拶をしに行くとでも言うのだろうか。
叔父さんの口から嫌味しか出てこないだろうし、恭介君に嫌な思いをさせることになる。
「叔父さんには私からちゃんと結婚するって言ってあるから、行かなくて良いと思う!」
顔から血の気が引くのを感じつつ、焦り気味に訴えかけると、ぽんと大きな手が頭に乗せられた。
「馬鹿。美羽にとって、もちろん俺にとっても、もっと大切な人たちがいるだろ?」
そこまで言ってもらってやっと気づくことができた。目に涙が浮かび、声が震える。
「もしかして、お父さんとお母さんのお墓?」
「あぁ。墓前へ顔を見せに行かないと」