妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~


「いやだって、俺と美羽が一緒に手を繋いで歩いていたら、まだ早いって目に涙を浮かべて怒られた」

「それっていつの話?」

「俺が小学二年の時」


だとしたら私はまだ幼稚園児だ。彼の口から飛び出したのが自分の記憶にも残っていない遥か昔の出来事だったため、再び笑いがこみ上げてくる。


「お父さんなら大丈夫だよ、恭介君のこと認めてたし。逆に私を嫁にもらってくれって何度も言われてたんでしょ?  その気になってくれてありがとうって喜んでると思う」

「そうだと良いな」


目尻の涙を指先でぬぐいながら自分の考えを述べると、恭介君の焦り顔が穏やかな表情へと変化する。

私たちは改めて暮石へと視線を戻した。

彼で先ほどの自分の言葉をぼんやり思い返すと、叔父の顔まで頭に浮かんでくる。

まるで遺言のように、恭介君の心の中に父の言葉が今も生きていたら。

私と結婚するのは使命感や哀れみなんかじゃなく、私のことが好きだからだよね?

聞きたいけど、聞くのが怖い。

どうしても問いかけられず唇を引き結んだ瞬間、腰に添えられていた恭介君の手に力が込められた。

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