妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
許可を得ず勝手にピアノを弾いている罪悪感が一気にこみ上げてきて、慌てて椅子から離れようとしたが、視界に捕らえた人物の姿に動きが止まった。
「いや。俺こそすまない。気持ちよく弾いてたのを邪魔したみたいだ」
身長は百八十五センチくらいで、細身。癖のない艶やかな黒髪、前髪がわずかにかかった目はくっきりとした二重で大きく、色白の肌は透明感抜群。
「……恭介、君?」
両親がなくなり、生まれ育った家を出て行ってからも、半年、少なくとも一年に一回は兄を含めた三人で恭介君と食事をしていた。
けれど彼が急に忙しくなったため、こうして面と向かって会うのは約三年ぶり。
会ってもらえなくなり寂しくて仕方がなかったけれど、彼は青砥家の一人息子でアオト株式会社の跡取りであるため、私など想像が及ばないくらい多忙なのだろうと納得するしかなかった。
とは言え、誕生日には毎年プレゼントを送ってくれ、兄から恭介君の話は毎日のように聞いていたから彼の存在を変わらず身近に感じていたのも確かだ。
嬉しくて声が震えた私に恭介君はわずかに表情を和らげて、立っていた戸口からこちらへと歩き出す。