妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
「おい、恭介。チェスを家から持っていっただろう? たまにはやろうじゃないか」
話題を変えるかのようなお義父さんからの誘いを受け、恭介君は「あぁ」と椅子から立ちあがり、書斎へと歩き出す。
私も誘われたけれど、やり方がわからないため遠慮し、夕食の片付けをしようかしらと立ち上がった晶子先生の後を追いかけキッチンに向かう。
カウンターキッチンのため、流し台に並んで立って手伝いながら、チェスをし始めたふたりを時折眺めた。
落ち着いた様子でお義父さんと対峙している恭介君の横顔を見つめていると、徐々に不安が膨らむ。
今は私も夫婦ふたりの時間をもう少し味わいたいと思っていても、三ヶ月、あるいは半年すぎた頃には考えが変わっていたとしてもおかしくない。
妊娠している可能性だって大いにある。
その時、恭介君は喜んでくれるだろうか。
考えが変わらず、渋い顔をされてしまったらどうしよう。
もやもやと考えを巡らせている最中、恭介君と目が合った。
彼の穏やかな微笑みに応えるべく、心の奥底に不安を押しやって必死に笑みを浮かべた。
翌日。緊張とともに迎えた出勤初日は、気疲れで幕を閉じようとしている。
「青砥社長によろしくお伝えください。それでは失礼します」