妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
彼女がいつ出てくるか分からない。
表情を引き締めてから自分のデスクに戻るべく歩き出した時、ガチャリと奥の部屋の扉が開いた。
背の高い、すらりとした美人の女性が、晶子先生と共に廊下に出てきた。
「恭介さんも顔を出されるかと楽しみにしていましたのに」
「ごめんなさい。近々、新しい代表と共に挨拶に行くと思いますので、その時はよろしくお願いします」
晶子先生に謝られても、女性の顔は面白く無さそうなまま。
ふいに目が合った。彼女から「あっ」と声が漏れ、その棘のある声に思わず身がすくむ。
動けずにいた私の目の前へと、その女性は一直線にやってきた。
「どうも。先日はお疲れ様でした」
「いえ。こちらこそありがとうございました。貴重な経験になりました」
上から冷たく見下ろされ、私は深く頭を下げる。
五十代くらいだろうこの女性は、この前行われたイベントの会場となった教室の責任者だ。
当日は挨拶くらいしか言葉を交わさなかったけれど、私に対する態度は普通だった。
けれど今日は、駅前教室に訪れた彼女を出迎えたその瞬間から私を睨みつけてきたほど当たりが強い。
どうやら恭介君がお気に入りだったようで、自分の娘を彼の結婚相手にと昔から推していたようだったのだ。