妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
それだけで会話を終わらせ、彼が私へと体を向ける。女性のまだ話し足りなそうな様子には気づいていないらしい。
「初日はどうだった?」
「覚えることがたくさんあって、頭がパンクしそう」
どんな仕事でも初めはそうだろう。でも、好きな仕事に携わっている実感も大きいため、まったく苦にならない。むしろ、やる気が漲っているくらいだ。
肩を竦め苦笑いで答えたのにもかかわらず、胸いっぱいの気持ちは彼に伝わったようだった。
「良かったな」と柔らかく囁き、微笑ましいと言った様子で少し目を細めながら私の頭を撫でてきた。
周りが見えなくなりかけた瞬間、すぐ側で存在を主張するようにごほんと咳払いが響いた。
「先ほどお話を聞かせてもらいましたのよ。交際期間はあまり長くないんですってね」
声だけで、恭介君と私の間にしっかり割り込んでくる。しかもその声音に嘲笑めいた響きを含んでいたため、一瞬で場の空気が悪くなった。
「正直、意外でした。恭介さんは堅実で真面目な方だから、時間をかけてゆっくり相手を知っていくタイプだとばかり思っていましたのに。若者にありがちだけど、勢いで結婚したようなものなのね」