妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~


「美羽を迎えに来たのだけれど、もう連れて帰っても?」


恭介君の要求を受け、晶子先生の眼差しが私へと移動する。


「あら。もうこんな時間ね。美羽ちゃん、お疲れさま。また明日もお願いね」

「はい。お疲れさまでした」


下げた頭を上げる前に、腰元にしっかりと恭介君が手を回してくる。

荷物を取るため自分のデスクへ向かったあと、「お先に失礼します」と廊下で立ち尽くしたままのふたりの前を足早に通って私たちは外へ出た。


「晶子先生に押し付けちゃった」


不安になってビルを肩越しに見上げる。盛大に怒鳴り散らされていないだろうか。想像しただけで申し訳なくてたまらなくなる。


「ケーキを手土産に、後で愚痴くらい聞いてやるか」

「うん。そうしよう」


提案に即座に乗り、晶子先生はどこのケーキが好きだと言っていただろうかとぼんやり記憶をたどり始めた私に、恭介君が手を差し出してきた。


「家まで手を繋いで帰らないか?」


言われて、教室の専用駐車場に彼の車が停まっていないことに気がついた。

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