妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
これがお試し期間として設けられてのことなら、いずれ社員になってがっつり働こうという希望も持てるのだけれど、そういうわけではない。
なんとなくこのままずるずると短時間勤務を続けることになりそうなのだ。
晶子先生は妊娠を期待しているから、「それで良いんじゃない?」と言ってくれるけれど、恭介君はそうじゃない。
子供は考えられないというのなら私は働きたいのに、どうしてだろうと考えていたところで、さっきの女性のひと言だ。
彼に期待されていなかったということなのかもと落ち込んでしまう。
彼も私と同じ出来事を思い浮かべたようだった。小さく息を吐いてから、神妙な顔で話し出す。
「この前は、あのまま放っておいたら母さんが子供服を買い始めそうな予感がして、まだ考えられないと言ったけど、……実際は、子供がいたらどんな感じだろうって時々考えてる。きっと今の俺の知らない幸せがそこにはあるんだろうなって」
徐々に微笑みに満ちていく彼の横顔を見て、胸を熱くさせる。
そして、私たちの間に新しい命が芽生えたら、もしかしたら私よりも恭介君の方が喜んでくれるんじゃないかと思えるくらいに、優しい眼差しで彼が私を見つめてきた。
彼の気持ちを聞いてホッとし確信すると共に、何を不安になっていたのだろうと自分が情けなくもなる。
横断歩道で、二人並んで足を止める。視線を通わせ、小さく笑い合う。