妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
歩行者用の信号が青に変わるのを待ちながら、恭介君が口を開く。
「さっき言われた通り、交際期間が短かいのもあるから、まだしばらくふたりっきりで過ごしたい気持ちも確かにある」
「うん。それは私も同じ気持ち。だから……」
「勤務時間を短くさせたのは、美羽に期待していないからでは決してない。もちろんそうしたいなら、俺は止めない。好きなだけ働くと良い。でも俺は今、美羽には他にもっとやるべきことがあるんじゃないかと思ってる。……違うか?」
鋭く問われ、息をのむ。心の奥底に大切に仕舞い込んだ夢を引き出すかのような言葉に、唇が震えて上手く答えられない。
「美羽だって、あの形での雇用を望んでないだろ? 講師として働きたいと思ったはずだ」
信号が変わり、私は彼に手を引かれ歩き出す。住宅街の中へと入り、周りが静かになったところで、彼が力強く切り出した。
「自分の夢に向かって、もう一度歩き出してみないか?」
思わず足が止まった。振り返った恭介君に真剣な眼差しを向けられ、頭の中が真っ白になる。