妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
恭介君の背中に手を回してぎゅっと抱きしめ返すと、彼が耳元で囁く。
「美羽の願いを叶えていこう。ひとつひとつ」
強調されたひとつひとつという言葉に、とくりと鼓動が跳ねた。
まるで、私の願いがまだもう一つあると知っているかのような声音だったからだ。
たくましい腕の中から視線をのぼらせると、すぐに力強い眼差しに捕らえられる。
すぐに彼に手を引かれて歩き始めたけれど、驚きと戸惑いからなかなか抜け出せなかった。
私の願いはもう一つある。
父の会社を取り戻すこと。高志さんではなく、兄が社長になって父の思いを引き継いでほしい。
けれど、そればかりは恭介君でもどうすることもできないし、余計な重荷になるだけだろうから頼ってはいけないとわかっている。
それだけは、気付かれないようにしっかり胸の中に秘めておこう。
そうひとり決意し、繋いだ手に軽く力を込めた。