妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
四章、最愛
ぼんやりテレビを見ていたけれど、玄関のドアの解錠音に反応し、素早くソファーから立ち上がる。
ぱたぱたと小走りで玄関に向かい、帰宅した恭介君を笑顔で迎えた。
「おかえりなさい!」
「ただいま。レッスンはどうだった?」
靴を脱ぎ、廊下を進みながら、早速彼が心配そうに問いかけてくる。
脱いだジャケットを両手を伸ばして彼から受け取り、後に続いて進む。
「久しぶりに石田教授と会ったよ。お変わりなくて安心しちゃった。それでね、音大に再チャレンジする私の決意をとても喜んでくれて、……レッスンではたっぷり絞られた。甘くないところも変わらない」
苦笑いすると、恭介君も「そっか。よかったな」と笑い返してきた。
石田教授は、高校の時、そして今改めて受験を考えている音大の女性の先生で、前回同様また受験に向けて指導してもらえることになったのだ。
ここ最近、ピアノに向き合う時間はぐんと増えたと言っても、ブランクがある分、練習量が足りないのは身に染みてわかっていた。
そしてレッスン初日の今日、案の定、それをしっかりと指摘される結果で終わったのだ。