妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
「あぁ、確かに忙しかった。一緒に食事をしたくても、実際それもままならなくて。しばらく会ってなかったし、大和から美羽は俺を忘れてるかもって言われていたからヒヤヒヤしてたが、嘘で良かった」
聞かされた兄の悪戯に、私は膨れっ面になる。
「忘れるわけないじゃない! お兄ちゃんは頻繁に恭介君と電話で話してるみたいだったから、食事に行くときは必ず私にも声をかけてって何度もお願いしてたくらいなんだから。最近、恭介はお前と食事するくらいなら他の女との予定を入れたくて、それで断られてるのかもって兄が言い始めて」
「そんなわけないだろ。適当なことばかり言いやがって。……あいつ覚えてろよ」
言いながら、実際そう思われていたらどうしようかと不安になり始めたところだった。恭介君からきっぱりと否定が入り、自分でも驚くほど安堵した。
怒気を含んだ不穏な声音でそんなことを呟きながらも、恭介君の顔はどことなく楽しげだ。
ここ三年、電話でのやりとりだけだったしても、兄との友情や絆は少しも変わっていないのが分かり嬉しくなる。
「だったら兄は放っておいて、今度ふたりだけで何か食べに行きましょうか。誘われなかったことで悔しがればいいんです」