妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
石田教授や晶子先生から為になる話を聞けるだろうとワクワクしているのも本当だけれど、久し振りに兄に会いたかったという気持ちも心の中でくすぶっている。
「お兄ちゃん、元気そうだった?」
自分も席に座って、少し身を乗り出し気味に問いかける。時々、兄と文字でのやり取りはしていても、声はずっと聞いていない。
「あぁ、相変わらずだ」
「そっか。それなら良いけど」
私が恭介君と結婚したから、社内で叔父からひどい仕打ちを受けていたらどうしようと心配していたのだ。
だから、実際に兄の顔を見たら安心できたのだろうけど、それはまだ少し先の話になりそうだ。
「それと、今まで父さんから散々言われていて、俺自身もその時に向けて準備はしてきていたけれど、近いうちにアザレア音楽スクールを離れることになりそうだ」
「本社に戻るの?」
「他のグループ会社にまた飛ばされる可能性もゼロじゃないが、……たぶん副社長に就任することになると思う。どちらにしても、近日中に正式に辞令が出るだろう」
「そっか。なんかちょっと寂しいけど、ここはおめでとうって言うべきだよね」