妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
マンションの徒歩圏内にコンビニが数件ある。
おつまみやお酒が足りないようなら、その時買いに行けばいいかという結論に至り、私はひとり頷き、自分の家に向かって通路を進んだ。
「ただいま」
そっと玄関のドアを開けて中を覗き込む。
私の想像とは違い、誰もいないのではないかと錯覚するほど家の中は静かだった。
とは言え、玄関には恭介君と兄の靴があるし、リビングの電気もしっかりついている。
眠ってしまったのだろうかと出来るだけ足音を立てずに廊下を歩いていくと、どこからかぼそぼそと話す声だけが聞こえてきた。
リビングに入ってすぐ、ベランダにふたつ並んだ背中を見つける。
ふたりともお酒の缶を片手に持っていて、時折見える横顔は真剣だ。気軽に近づけない雰囲気をまとっている。
ダイニングテーブルにはお酒の空き缶が四本ほど並んでいる。
その傍に自分のバッグを置いて、ベランダにいるふたりの様子を伺っていると、恭介君が私に気が付いた。
ぎこちなさを拭えぬままに「ただいま」と笑いかけると、すぐさま彼の表情に温かさが広がり、リビングへと戻ってくる。
彼に続いて室内に入って来た兄にも、微笑みかけた。