妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~


「お義父さんも交えて三人でだなんて珍しいよね」

「初めてだな」

「想像つかないんだけど、いったいどんな話をしたの?」


軽い気持ちで発した質問だったのに、恭介君が難しい顔をしたため、ほんの数秒間、妙な空気が流れた。


「いろいろと……。主に仕事関係の話を」


それじゃあ接待みたいだと、彼からの返答に対して違和感を覚えても、私は「そうなんだ」と言葉を返すしかない。

何気なく兄へと視線を戻し、今度は私が眉間にしわを寄せることになる。

目が合った瞬間、兄がブランケットを自らの顔を隠すように引き上げたからだ。

接触を拒絶されたみたいで面白くなくて、膨れっ面で「なによその態度」と文句を呟いた私の頭に、恭介君の手が優しく添えられる。


「俺、少し仕事する。寂しくなったら遠慮なく声をかけてくれ、休憩がてら構ってやるから」


囁きかけながら、彼が私の額へとそっと口づけをする。


「大変だね。頑張って」


恭介君の柔らかな唇の感触が兄への不満を緩和する。

私に微笑みかけつつキッチンを出て行く彼を、額に残る温もりの跡を指先で抑えながら見送った。

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