妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~

スマホが音を奏でたことで、ハッとし手を止める。


「もうこんな時間。そろそろ行こうかな」


アラームを止め、慌てて片付けを始める中、ふっとドアへと顔を向け、目を大きくさせる。

ドアの縦長の小窓から中を覗き込んでいる女の子に笑いかけられたからだ。

手早く片付け、私も笑顔で廊下に出た。


「こんにちは。今からレッスンだね。頑張って!」


お母さんへと頭を下げてから、私は身を屈めて女の子と視線の高さを近づけた。


「お姉ちゃん、やっぱり上手だね! 私もあんな風に弾けるようになりたい」

「ありがとう。練習したらすぐだよ。頑張ってね!」


目の前で瞳をキラキラさせている女の子は、この前のイベント時に私に話しかけてくれた子で、半月前からここの教室に通い始めたばかりだ。

「どうですか?」とお母さんに話しかけると、いろいろ不安があったのか堰を切ったように言葉が溢れ出した。私も真摯に耳を傾ける。

女の子の相手をしつつあれこれ話をしていると、スタッフルームから晶子先生が出てきたため、もちろんすぐに声をかけた。

三人で話をし始めて十分が過ぎ、ひと段落したところで私は石田先生の顔を思い出す。

あまりのんびりもしていられない。

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