妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
外階段を降り切ってから振り返り、今出てきた場所を仰ぎ見る。
『ムラヅマ商会』。都心の一角に建つ六階建てのビルの二階に入ったこの中小企業が、私、羽柴美羽の務める会社である。
主に配電盤や省エネ関連商品を扱い、従業員は五十人を超えるくらい。
五年前に新卒で入社してからずっと、小規模ながらのアットホームな社風の中で経理の一員として働いている。
体を前に戻すと同時に、視線を上昇させる。
通りの先には、オフィス街として有名なこの界隈でも群を抜いて高くそびえ立つ存在感抜群なビルが二つある。
運輸を軸に金属製品の生産からインフラまで幅広く事業展開している『羽柴コーポレーション』。
それからもう一つは、楽器にネットワーク機器、音楽財団事業などグローバルに活躍している『アオト株式会社』。
羽柴コーポレーションは祖父が立ち上げ、父がその跡を引き継ぎ、大きくしていった会社だ。
けど、私が高校生の時に両親が交通事故でなくなり、それからは叔父が社長となった。
今、兄は叔父の元で必死に働き、私はお父さんの会社とは関係のないところにいる。