妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
アオト株式会社は、兄の親友であり私にとっては幼馴染の彼の父親の会社だ。
私は彼の家族にとても良くしてもらっていたけれど、両親の事故を境に疎遠となった。
羽柴コーポレーションとアオト株式会社。
両方とも私にとって身近であり親しみすら感じる存在だけれども、こうして遠くから見つめるとその巨大さに圧倒され、自分の無力さに胸が締め付けられる。
どうにもならない現実から目を逸らして、大きく息を吐いた。
生まれた心の中の靄を振り切りたくて足早に駅へと歩き始めた時、着信音が鳴り響いた。
再び足を止めてバッグからスマホを取り出し、眉をひそめる。
着信を受けたくなかったけれど、無視すればのちのち嫌味を言われるのが目に見えているため、仕方なくスマホを耳に押し当てた。
「……お、叔父さん、こんにちは」
「やぁ、美羽ちゃん。元気でやっているか?」
電話の向こうから聞こえてきた叔父の声に、自然と苦笑いが浮かぶ。
「はい。……あの、私になにかご用ですか?」
ただ心配して電話をかけてきた訳でないことくらい、私にだって分かる。
ちょうどツインタワーを見て感傷的になっていたからか、意図せず声音が刺々しくなったけれど、叔父は気づいてもいないようだった。