妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
ポンポンと肩を叩いてきた兄の手をとっさに掴み、声を荒げた。
跡を継ぐのは高志さんだと平然と言いのけ、挙句、私が怒る理由が分からないと言った様子で兄にキョトンとした顔され、苛立ちが加速する。
「羽柴コーポレーションはお父さんが大切に守ってきた会社だから、高志さんじゃなくてお兄ちゃんに引き継いでもらいたい。ちゃんとお父さんの思いを引き継げる人に、上に立って欲しいの」
「……美羽」
気持ちをぶつけると、わずかに兄は表情が曇らせた。言葉を発することなく、相手の気持ちを探るように私たちは見つめあう。
そのうち、ひとつの考えが頭に浮かんできて、私はそれを言葉にした。
「今回の結婚話、叔父さんじゃなくてお兄ちゃんも私を利用できるんじゃない?」
「おい、何言い出すんだよ」
「今は蚊帳の外だけど、一歩飛び込んだら、私だってお兄ちゃんの力になれるかもしれない」
非協力的に振る舞ったり、父派とされる人たちと接触したりと、兄が優位に働くように動けるかもしれない。
そんな私の甘い考えを見透かすように、兄が「美羽!」と声を荒げた。
「そんな理由で自分の人生を棒にふるような真似をしたら絶対に許さない」
怒りに満ちた表情を目の当たりにし、急に怖くなる。私は掴んでいた兄の手を離し、体を小さくさせた。
「……ごめんなさい。でも今のは例えばの話で」
「例えばでも許さない」