妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
兄が本気で怒っている。車内が気まずさで満ちていく。
視線を膝の上に落として今の発言は迂闊だったかと反省する私の頭を、兄が少し手荒に撫でてきた。
「叔父たちを手玉に取るのは、美羽には無理だ。結局は良いように使われるだけ。もちろん俺だって父さんの会社を取り戻したい。諦める気もないし、これからもできることをしていくつもりだ。けど、それと同じくらい美羽のことも守りたい。無茶なことはしないで」
兄の優しい声と切なげな表情が涙を誘う。
私は非力だ。飛び込んだところで、兄の力になるはずがいつの間にか足を引っ張っていたということにもなりかねない。
「……うん。わかった。ごめんね」
ふたりっきりで歩いてきた道のりを思い出し、胸の苦しさを噛みしめながら私は兄に謝った。
月曜日、また新しい一週間が始まる。
兄とテーブルを囲んで朝食をとりながら、金曜日に恭介君と会う約束をしていることを思い返しながら、ぼんやりとカレンダーを見つめる。
「どうした? カレンダーばっかり見て」
少し鋭く問いかけられ、ハッとする。視線を兄に移動させると、やっぱり疑わしそうな顔で私を見ていた。
先週末、叔父との食事の後、あんな発言をしてしまったため、いまだに兄は私の様子に神経をとがらせているのだ。