妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
恭介君から誘われたあと、カレンダーで日付を確認した時、この日は恭介君の誕生日かもと思ったのだが、なかなか確信が持てずにいたのだ。
「え? あー……そうだったかな。でも今月なのは確かだ」
期待していたのに、兄から明確な返事がもらえず、わずかに眉根をよせる。
「誕生日ならプレゼントくらい用意すべきでしょ? ……でも、違っていてもいいか。三十歳の節目でもあるしお祝いしなくちゃ。ちゃんと準備しておこうっと」
コーヒーを口に運ぼうとしていた兄の手が止まる。
「……三十」
深刻そうにそれだけ呟くと、そのままコーヒーをテーブルに戻した。
急に視線を俯かせ、何かを考え始めた兄の顔の前で、私は手の平をひらひらさせ「お兄ちゃん?」と呼びかけた。
しかし、兄はそれに反応することなくガタリと席を立ち、「仕事行ってくる」と歩き出す。
「ちょっと!」と叫んだけれど、やっぱり私の声は兄に届かなかった。
そんな朝の変な出来事は仕事の忙しさで記憶の彼方へと消え去り、ついでに叔父との会話に思いをめぐらせる暇もなく、慌ただしく過ぎていった。
定時で仕事を終え、疲労感を引きずりながら職場を出た。
駅に向かって歩いている途中で車のクラクションが響き、呼ばれたような気がして視線を上げる。