妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
予感は当たっていた。前方十メートルほど先の路肩に見覚えのある車が停まっていたからだ。
恭介君の車だと気が付き驚くも、足は素早く道を進み出す。開けられた助手席の窓から覗き込み、運転席に座っている恭介君に笑いかけた。
「どうしたの?」
「……すまない突然。取りあえず乗ってくれ」
声から焦っていることが伝わってくる。どうしたのかと別の驚きが湧き上がってくるも、素直に私は車へと乗り込んだ。
「このあと予定は入っているか?」
恭介君の怖いくらい真剣な顔を見つめ返しながら、ぎこちなく首を横に振る。
「それなら少しだけ俺に付き合ってくれ。話があるんだ」
言い終えると同時に、恭介君が車を発進させた。
慌ててシートベルトをした後、改めて恭介君へと目を向ける。
前髪の些細な乱れにすら、彼が大急ぎで私の元へやって来たんじゃないかと思えて仕方がない。
見たことのない彼の様子を目の当たりにして、彼の言う「話」を聞くのが薄っすら怖くなる。
赤信号に捕まり停車して、ちらりと私を見た恭介君がわずかに口角を上げた。