妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~

心が震える。恭介君の腕に添えた自分の手もかすかに震えている。

どうしよう。私、嬉しくてたまらない。

驚きや戸惑いなどすべての感情を覆い尽くすほど、思いが喜びで溢れそうになる。

しかし、「きゃあ」と響いた黄色い声で、私は即座に現実へと引き戻された。

いつの間にこんなに人が集まっていたのかと思うくらい、沢山の人が足を止めてこちらを見ている。

「彼氏、格好良すぎ」と先程発せられたのと同じ声の若い女性が、手にしていたスマホをこちらに向けた。

とっさに私は恭介君の手を掴み、全力で人の視線から逃げ出す。


「悪い。気持ちが抑えられなくなって、抱き締めてしまった」


走りながら失敗したと肩を落とす恭介君の様子がおかしくて、思わず笑ってしまった。

すると、恭介君の表情も気まずさから苦笑いへと変わり、ついにはふたり揃って肩を揺らす。


「私たち付き合ったこともないのに、結婚しようは早いんじゃない?」


車まで戻ってきたところで、私は思い切って問いかける。

先程女性は恭介君を「彼氏」と言ったけど、私たちは恋人じゃない。

そこを指摘すると、肩を竦められてしまった。

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