妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
「人聞きの悪いこと言わないで。本当に恭介君とは久しぶりだったんだから」
「そっか。......で、久しぶりの食事があいつの誕生日かよ。何か変なこと言われてないか?」
「へ、変なこと? なにそれ」
半笑いで答えながら、この前のプロポーズに関して兄に探りを入れられている気分になり、ひどく動揺する。
もしかして、恭介君から既に聞いているのかもしれない。
そんな可能性も頭に浮かんだけれど、知らなかったらと思うと墓穴を掘るのが怖くて下手に自分から話せない。
ちらりと向けられた物言いたげな兄の眼差しから逃げるように、私はスマホに意識を集中させた。
早く着いてと願うこと十五分。ようやく車はお店の駐車場に到着する。
ちょうど恭介君の車の隣が空いていて、やけにのろのろと兄はそこに車を停める。
私は先に車を降り、恭介君の車を覗き込む。運転席に誰も座っていないのが分かると、自然と視線はお店の入口の方へ。
三歩ほど足を前に進め、大きく振り返る。もうエンジンは止まっているというのに、兄がなかなか車を降りてこない。
運転席へと回り込み、軽く窓をノックしてやっと運転席のドアが開いた。
「三分遅刻だよ。早く行こう」