妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
急かしつつ歩き出すも、兄の速度が上がらないため、立ち止まっては追いつくのを待ってを繰り返す羽目になる。
さっきまでは突然の同席に難色を示した私を責めていたくせに、なぜ今になって気乗りしていないかのような態度を取るのか。
「行きたくないなら、このまま帰ってくれていいよ? 送ってくれてどうもありがとう」
ムッと眉根を寄せて突き放しの言葉をかけると、ハッと顔を上げた兄がきびきびと歩き始める。
「そういうわけじゃなくて。......今日が恭介の誕生日だと気付いてから胸騒ぎが止まらないんだよ」
きっと兄の言う気付いた瞬間は、月曜日の朝の私との会話の時だろう。
そのあと兄が恭介君に電話をしたから、恭介君が私の前に現れて......。
癖のように唇に触れて、頬を熱くする。
しかしすぐに兄と目が合い現実に引き戻された。
「変なこと言ってないで行くよ!」と兄の腕を掴み、店に向かって進んでいく。
無機質にも見えるすっきりとした外観からは想像できないくらい、店内はお洒落だった。
アンティーク調のテーブルや椅子が整然と並び、そこで食事をしている客もやけに上品に見えてくる。