妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
明る過ぎない照明や、店の奥に置かれたピアノも雰囲気作りに一役買っている。
店員に案内された窓際の四人掛けのテーブル席に恭介君はいた。
頬杖をついてぼんやりと窓の外を見つめている彼の姿はとても絵になっていて、一歩一歩近づくたびどんどん鼓動が早くなる。
緊張する中、ふっと恭介君の視線がこちらに向き、目が合った。
彼の唇はかすかに弧を描いただけだったけれど、眼差しが一気に柔らかくなったように私には見えた。
「俺の都合で突然予定を変えて悪かったな」
「今日は誘ってくれてありがとう。素敵なお店だね」
緊張と気恥ずかしさでぎこちなく首を横に振ったあと、店内に視線を走らせ、少し震える声で囁きかけた。
きっとそうだろうと予想はしていたが、彼に先日のことを気にしている様子はない。
自分ばかりが意識しまくっている状況だから、余計に恥ずかしい。
「本当に雰囲気あるな。デートにぴったりだ。来店何回目?」
嫌味っぽい言い方で話しかけながら、兄が恭介君の向かい側の席に腰かけた。
私はテーブル脇に立ったまま「お兄ちゃん!」と声を上げたが、確かに周りは恋人だろう男女のテーブルが多く、内心気になって仕方がない。