妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~

兄の言う通り、デートによく利用しているお気に入りの店なのだとしたら......。

顔の見えない女性と恭介君が食事をする様子を想像する。

私の頭の中で彼があまりにも楽しそうにしているため、不愉快さが胸をチクリと刺激した。

現実の恭介君から柔和さが消え、その冷ややかな表情は兄へと向けられる。


「二回目だ。一回目は母さんの誕生日」


回数にギュッと胸が苦しくなるも、来店理由を聞いて拍子抜けする。

と同時に、恭介君の言葉に一喜一憂する自分が恥ずかしくもなる。

兄に「余計なこと言わない!」と文句を言うことで、そわそわと落ち着かない気持ちをなんとか隠し、そのまま隣の空いている椅子へと手をかけた。


「美羽」


しかし、座るよりも前に恭介君に呼び掛けられ、なぜか彼は自分の隣の席を指さしてきた。

俺の隣に座れということ?

恭介君の動作と表情からそう考えるも、確信するまでにはなかなか至らない。

この面子だと、兄の隣に座る方が自然に思えたからだ。


「俺の隣に座って」


私の戸惑いを察知したのか、恭介君ははっきりと言葉で要求してきた。

兄の唖然とした顔と恭介君の隣の席を交互に見る。

どうしようかと考えるよりも先に、自然と足が動き出していた。

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