妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
恭介君の隣に腰掛け、斜め前の兄を見る。
昔は兄の隣から恭介君を見つめることがほとんどだったため、とても新鮮だ。
とは言え、どうして私はこちらに座ってしまったのかと今更ながら自問自答し始めた私に、兄が納得いかない顔をした。
「え? ちょっと待って。なんでそっち?」
恭介君の隣に座りたいと思った。
気持ちのままに足が動いたのだけれど、それを言葉にするのも気恥ずかしい。
「今日の主役は俺だ。だから俺を立ててくれたまでだろ。細かいことをいちいち気にするな」
答えられない私に代わって、恭介君がさらりとフォローを入れてくれた。
「そうだよ! 恭介君、三十歳のお誕生日おめでとう!」
「ありがとう」
笑顔でお祝いを述べて拍手すると、彼が微笑みを返してくる。
「やっと三十になった。待ちわびたよ」
あまりにも心のこもったひと言に、「そんなに?」と苦笑いする。
子供の頃にはあったはずの誕生日を待ちわびる気持ちなど大人になると消え失せ、逆に年を重ねることはあまり喜ばしく思えなくなってくるというのに、恭介君は違うようだ。
「もしかして、三十歳から何か始める予定?」