妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
そんな私をみて、兄が顔色を悪くする。
「おい。ちょっと待て。まさか」
「残念だな。もう知っている。既に美羽にはプロポーズ済みだ。だから今日は、その話をするために大和の同席を許可した」
場に沈黙が落ちて三秒後、兄が「なっ!」と椅子から腰を浮かす。
そして戸惑いの顔を私にも向けてきたため、そっと兄から目を逸らした。
元々、三十歳の誕生日を機に私にプロポーズをするつもりだったと、先日恭介君に打ち明けられていたことを思い出す。
私は墓穴を掘るような質問をしていたのかと、顔を青くした。
「プロポーズって......。いやだってまだ付き合ってもいないのに、気が早すぎだろ?」
「俺だってそんなの分かってるけど、他の男との結婚話が出てると聞いて黙っていられるわけないだろ? 美羽の結婚相手として認めてもらうために、俺は大和からの無茶な条件を必死にクリアしたっていうのに」
不満が含まれている鋭い物言いに兄が息をのむ。
そこでテーブルに食事が運ばれてきて話は中断したが、店員が去った後も誰もナイフとフォークを手に取ろうとしなかった。