妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~

そんな私をみて、兄が顔色を悪くする。


「おい。ちょっと待て。まさか」

「残念だな。もう知っている。既に美羽にはプロポーズ済みだ。だから今日は、その話をするために大和の同席を許可した」


場に沈黙が落ちて三秒後、兄が「なっ!」と椅子から腰を浮かす。

そして戸惑いの顔を私にも向けてきたため、そっと兄から目を逸らした。

元々、三十歳の誕生日を機に私にプロポーズをするつもりだったと、先日恭介君に打ち明けられていたことを思い出す。

私は墓穴を掘るような質問をしていたのかと、顔を青くした。


「プロポーズって......。いやだってまだ付き合ってもいないのに、気が早すぎだろ?」

「俺だってそんなの分かってるけど、他の男との結婚話が出てると聞いて黙っていられるわけないだろ? 美羽の結婚相手として認めてもらうために、俺は大和からの無茶な条件を必死にクリアしたっていうのに」


不満が含まれている鋭い物言いに兄が息をのむ。

そこでテーブルに食事が運ばれてきて話は中断したが、店員が去った後も誰もナイフとフォークを手に取ろうとしなかった。

< 62 / 196 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop