妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
恭介君と兄の間でさっきの会話は成立しているようだが、私には何も見えてこない。
自分の知らぬ間にどんなやりとりがされていたのかくらい、私も把握しておきたい。
「お兄ちゃんからの条件って何?」
いろいろと疑問が浮かぶ中から、ひとつ質問する。答えてくれたのは恭介君だった。
「社長になれたら、嫁にやってもいい。だったな?」
「そ、そんなこと言ったの?」
私と恭介君の視線の先で、罰が悪そうに兄は体を小さくさせた。しかしすぐに開き直る。表情を明るくさせ、背筋を伸ばした。
「あぁそうだよ、確かに言った! でもその時、俺たちは社会人として駆け出しだったし、美羽もまだ大学生だ。普通誰だって冗談だと思うだろ? だから軽い気持ちでそう返したんだよ」
「嘘つけ。俺の気持ちはその前から伝えていたし、本気だってのも分かっていたはずだ。だから俺が父の跡を継ぐのはまだまだ先の話だって考えて、あえてその条件を提示したんだろ? あの時の大和の顔はいつになく真剣だった」
勢いよく反論した兄だったが、恭介君に鋭く切り返されて、うなだれるように肩を落とす。
しかし恭介君は攻めの姿勢を崩さない。取り出した名刺を兄の前に置く。
「今さら無効だなんて言わせない」