妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
渋い顔の兄と店で別れ、私は恭介君の運転でショッピングモールに向かう。
店内通路を並んで進みながら「何か欲しいものはある?」と問いかける。
恭介君は「そうだなぁ」と答えるも、心ここに在らずといった様子だ。
「今日は恭介君の誕生日なんだから、なにかプレゼントさせてよ!」
私は彼の腕をがっちり掴む。
とりあえず手近の洋服店へと引っ張り込もうとしたけれど、難なく彼に手を解かれ、逆に左手を掴み取られた。
ぎゅっと手を繋ぎ、辺りに視線を走らせつつも足を止めずに進んでいく。
彼を後ろから見つめていたら、だんだんとなにかを探しているように思えてきて、再び問いかける。
「どこかに向かっているの?」
「月曜日は焦りで肝心なものを用意できていなかったから」
「肝心なもの?」
噴水広場へと出て、恭介君が足を止めて振り返る。
微かに笑みを浮かべて、低く勿体ぶるように囁きかけてくる。
「普通、必要だろ? プロポーズするときに」
湧き上がる水の音が響く中、彼と見つめ合って三秒後、私は目を大きくする。
「まさか。......ゆ、指輪?」
強張った声で思い浮かんだものを口にした私を、恭介君がじっと見つめる。
「断るかもしれない相手から、指輪まで渡されたら重いか?」