妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
会社を出たのが午後五時過ぎで、電車に乗ってここまでやってきた時間を考えると、時刻はもうすぐ六時を迎える頃だろう。
「それまでに家に戻れないかもしれないから。できれば駅に迎えに来て欲しい」
家で拾ってもらうよりは、その方が効率が良いかもしれない。そんな考えからお願いすると、不思議そうな声が返ってきた。
「今、どこにいるんだ?」
問いかけを受けると同時に足を止め、視線をあげる。閑静な住宅地に建つ大きな洋風の家を見上げて、微笑んだ。
「さっき、晶子先生から電話をもらってね、久しぶりお家にお邪魔することになったの。今着いたところ」
家を訪ねるのは、高校生の時以来だ。
上部に緩やかな丸みを帯びた門扉の向こうには、物語の中に出てくるみたいな真っ白な外観の大きな一軒家。可愛らしさは昔と変わらない。
「晶子さんから? だったら恭介の家にいるんだな。駅でも恭介の家でも迎えに行くよ。時間になったら連絡する」
「うん。それじゃあ、また後で」
兄の言葉に出てきた「恭介」という名前に、鼓動が弾む。