妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
スマホをバッグにしまい、髪を指先ですきながら門扉の横の壁にある『青砥』と書かれた表札と向き合った。
つい二階の角にある彼の部屋の窓へと視線を上らせるも、この時間に恭介君がいるはずがないと自分の浅はかな期待に苦笑いする。
それでもなかなか窓から目をそらせずにいたけれど、ふっと心の中に虚しさが差し込んできて、無意識に隣りの家へと視線を移動した。
庭を挟んで佇むのは、青砥家と同じくらいの広さがある立派な和風の邸宅。
ここからでは見えないけれど、門には『羽柴』という表札が下げられている。私がかつて住んでいた家だ。
一階の中途半端に開いたカーテンの向こうで、叔母さんの姿がちらつく。
彼女もまた叔父同様、あまり会いたくない人である。気づかれたくないという気持ちが芽生え、私は急いで青砥邸のインターフォンを押した。
するとすぐにスピーカーから「今開けるわね!」と応答があり、程なくして扉が開き、中から小柄の女性が出てきた。
「美羽ちゃん、来てくれてありがとう。久しぶりね」
「晶子先生! ご無沙汰していました! 元気でしたか?」
「えぇ。美羽ちゃんも元気そうで良かったわ。すっかり大人の女性になっちゃって」