妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
一回目のステージまであと三十分。
司会の女性も交えて、晶子先生が改めて確認の文言を繰り返す最中、どこからかヴァイオリンの音色が聞こえてきた。
視線を彷徨わせて、練習中だろう女性の姿を見つける。
その姿があまりにも楽しそうで、そして輝いて見えたため、私は圧倒される。
「上手ですね」
司会の女性がヴァイオリン奏者の女性を見つめながらうっとり呟くと、晶子先生が嬉しそうに続けた。
「えぇ、とっても才能のある子なの。今は大学で、プロを目指して頑張ってるわ」
確かに彼女の音色は透き通っていて、練習の時から上手だなぁと聞き惚れていた。
最初晶子先生が、声をかけた人には趣味で続けている人も多いと言っていたけれど、みんながみんなそうではないのだと改めて理解する。
もちろん、他の奏者として呼ばれている人々もみんな上手だ。
こうして見ていると、私より年下なのに堂々とし貫禄すらあるように見えてくる。
しばらくの間趣味と呼べるほども向き合っていなかった自分がみんなの足を引っ張ってしまうのではと不安に襲われ、また手が震え出す。
ステージに設置された集音マイクがきちんと音を拾っているかの最終チェックが行われている。
人を呼び込むために、それが拾った音を店舗の外にあるスピーカーから流すのだ。