妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
豊かに波打つ髪を後ろで束ね、目鼻立ちがはっきりとした美人の、立ち姿すら気品を漂わせているこの女性が晶子先生。
恭介君のお母さんで、子供の頃は私のピアノ先生でもあった。
まだピアノ教室を開いているのだろうかと気になり、表札の辺りへ目を向ける。
以前はそこにピアノ教室の小さな看板も下がっていたからだ。
しかし、記憶の中にあるそれを見つけることができず、戸惑いが生まれる。
「さぁ、入って」
「はい。お邪魔します。……あの。今もまだ教室はやられているんですよね?」
門扉を通り抜け、玄関へと進みながら私は静々と問いかけた。玄関の扉を開けて、晶子先生が肩越しに微笑みかけてくる。
「えぇもちろん。子供達にピアノを教えることは自分の天職だと今でも変わらず思ってるわ」
「それなら良かったです、安心しました。電話で生徒さんの話をしていたのに、外のピアノ教室の看板が無くなってたから、どうしたのかなって少し不安になったので」
玄関で靴を脱ぎつつ気持ちを打ち明けると、晶子先生は目を大きく見開きキョトンとした顔をした。