妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
ピアノの近くにあるため、ミスもしっかり拾われてしまうと思うとさらに怖くなる。

控え室で待機するように言われて、私はのろのろ歩き出す。

人々の流れに乗れないまま、通路の途中で足を止め、壁に背中を預けた。

スカートのポケットに入れておいたスマホを取り出して、画面にため息をつく。

「遅くなる」のひと言でもあったらよかったのに、恭介君からのメッセージは何も届いていない。

今日は会えないかもしれない。会えないなら、せめて声だけでも聴きたい。

「頑張れって」言ってもらえたら、上手くいくような気がする。

すがるようにスマホを操作しようとしたけれど、トラブルがあって大変だろう時に、こんなちっぽけな理由で電話をかけるのは心苦しく、それをポケットに戻した。

小刻みに震え続けている手を見つめて途方にくれる。

恭介君と向き合うため、自分に自信を持ちたくて引き受けたのに、このままでは失敗する。

彼と晶子先生を失望させて、もしまた疎遠になってしまったら。

ふっと恭介君の家で見たお見合い写真が頭に浮かび、ぎゅっと目を瞑る。

それだけは絶対嫌!


「美羽。大丈夫か?」


聞こえた声に、ゆっくり目を開ける。見つけた姿に、思わず涙が浮かんだ。


「恭介君!」


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