妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
そのまま彼に飛びついた。
抱きしめ返してきた手が戸惑っていたのは最初だけ、すぐに優しく背中をさすってくれた。
「俺がいなくて寂しかったのか?」
「......違う」
「そうか。遅くなって悪かった」
「違うってば」
胸元に顔を埋めたまま繰り返し否定すると、恭介君が小さく笑った。
穏やかな彼の笑い声が振動となって私の中に深く伝わり、大きく息を吐く。
やっと心が落ち着きを取り戻し始める。誰のおかげかなんて考えるまでもない。
「恭介君の顔を見たら、ちょっと緊張が解けた」
顔を上げて笑いかけると、そこにはいつもの冷静で端正な顔があり、またホッとする。
「珍しいな、緊張していたのか?」
「うん。昔はこんなに緊張しなかったんだけど、ほら......あれ?」
彼に両手の平を見せて数秒後、私は驚きの声をあげる。さっきまで確かに震えていたのに、今はもうなんともない。
すると恭介君の両手がふわりと私の手を包み込んだ。
「大丈夫、上手くいく。美羽らしく弾けばいい。そうしたらみんなを笑顔にできるから。必ず」