妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
お母さんと共に私のそばにやってきた小学校低学年くらいの女の子を私は笑顔で迎える。
女の子が曲のタイトルではなく、有名女性アーティストの名前とその曲がタイアップされ
ているCM名を口にする。
私はそれでなんとか記憶を掘り起こし、「えぇと、確か」と曲を弾き始めた。
所々たどたどしくなりながらも、女の子の嬉しそうな表情から曲が正解だったのが分かり、ほっと安堵する。
他にもリクエストされ、何曲かやりとりしたあと、女の子はお母さんに手を引かれ、ちょうど人が離れた晶子先生の元に歩み寄っていった。
しかし、すぐにパタパタと女の子だけが戻ってきた。
「お姉ちゃん、格好いいね! 私もたくさんピアノ練習したら、お姉ちゃんみたいになれる
かな?」
自分に向けられた無邪気な瞳に、子供のころ抱いた思いが重なり、心が温かくなる。
「もちろん!」
すぐに私も、力いっぱい返事をした。
最後のミニコンサートも無事に終えて、他の四人の奏者やスタッフ、晶子先生と恭介君たちと一緒に控え室に用意されたケータリングを頂きつつ歓談した後、私は頃合いを見て彼と共にその場を後にした。